なぜか推しが追ってくる。
「っ……、何年か前に恭くん……あっ、天羽くんが出てた舞台見て元気もらって、それからずっと応援してます」
溢れ出そうになる感情は唇を噛むことで抑え込む。
恭くんは「苗字でも名前でも好きに呼んでいいよ」と言って、両手で軽く口元を押さえながら笑った。
「ふふ、嬉しいな。仕事と離れたところで出会う人の中に、俺の事知ってる人ってほとんどいなくてさ」
……知ってるこの仕草。
恭くんの事務所の各種SNSで発信される日常動画で繰り返し見た。
カメラに向けてつくった笑顔とは違い、思いがけず嬉しいことがあったとき、恭くんはこういう笑い方をする癖がある。
「担任の……えっと、田中先生は、同じクラスでしかも隣の席にファンがいるのはやりづらいだろうって心配してたけど……」
担任、中田先生だけどな。
その間違いも可愛いので許す。恭くんの言葉に口を挟むなんて野暮な真似はいたしません。
「俺はむしろ、隣の席が武藤さんでめちゃくちゃ嬉しい」