なぜか推しが追ってくる。
「あ、そろそろ先輩たちの劇終わるんじゃない?」
「うわ、とうとう……」
舞台の方を見ていた恭くんに言われて、わたしはまたひゅっと息を飲んだ。
「じゃ、私たちは客席戻るね」
「だな。頑張れよ武藤」
そう言って手を振る真緒と数馬を見送って、わたしは舞台の方を向く。
そのうち客席から大きな拍手が聞こえてきた。先輩たちは無事やり遂げたらしい。
二回大きく深呼吸をしたわたしに、恭くんは振り返って手を伸ばす。
「行こう、瑞紀ちゃん」
「うん。ここまで来たんだもん。……もう逃げない」
「逃げたって、俺が何度でも追いかけるけどね」
「へへ、そうだった」
わたしはちょっと笑いながら、そっと恭くんの手をとる。
そして、観客の待つ舞台へと一歩踏み出した。
-fin-