なぜか推しが追ってくる。
中には直接話しかける強気な人たちまでいるものの、恭くんはそれぞれに嫌な顔せず笑顔で対応している。
だけどそういった対応はそれなりに疲れるようで、休み時間が終わって席に戻った恭くんが、ふうっと大きなため息をついて机に突っ伏しているのをわたしは知っている。
「……」
わたしはそんな彼を見ながら、心の中で「ここにいるのはクラスメイトの天羽くん。ただの高校一年生天羽くん。NOT推し。画面の向こうと混同するな」と三回ぐらい言い聞かせる。
それから、鞄からチョコレートを一粒取り出して、そーっと恭くんの机に乗せた。
「……! わ、チョコだ。くれるの?」
机に伏せっているから気付かれないかと思ったけど、恭くんはすぐに顔を上げた。
「あ、うん。お疲れみたいだから糖分補給に」
「やった、ありがとう武藤さん。お、ホワイトチョコと二層になってるやつだ。美味しいよねこれ」
「毎日大変だね、……天羽くん」
直接話すときは、名前を“恭くん”ではなく“天羽くん”と呼ぶようにした。
こうすると、クラスメイトモードに頭を切り替えやすい。ライフハック。