なぜか推しが追ってくる。
何に関するライバルなのだろう……と考えて、まさかと思う。
「え、数馬って役者目指してたの!?」
「は?」
「恭くんがライバルってことはそういうことじゃ……?」
「馬鹿っ、違えよ!」
数馬はなぜか顔を真っ赤にしてそう言うと、勢いよく立ち上がって食器を片付けに行った。真緒も苦笑いしてそれに続く。
何? 何なのいったい?
わたしも「待ってよ」と言って追いかけようとした。
……そのとき。
誰かに強く腕を引かれた。
その人の顔を見て、腰を抜かしそうになる。
「わ、え……き、き恭くん!? あ、ちが、天羽くん……」
恭くんはわたしの腕をつかんだまま、優しい笑みを浮かべていた。
「武藤さん、さっきはありがとう」
「へ……」
お礼を言われて、わたしの脳裏にさっきの狂気じみた行動が蘇る。
色々な角度から推しを馬鹿にされ、怒りによりものすごくハイになっていた。感謝される筋合いはないし、むしろこちらがスライディング土下座しなければならない状況ではなかろうか。
そう思っていたから、恭くんが少しだけ怒ったように「でもこれだけは言わせて」と言ったとき、どんな言葉で非難されようと受け入れる覚悟だった。