なぜか推しが追ってくる。
そしてチャイムが鳴り、集まっていたクラスメイトたちが戻っていった後。
「そっか。瑞紀ちゃんもうチケット買っちゃってたんだ」
隣の席で、恭くんが短くため息をついた。
「え? あ、うん。もちろん発売開始日に買ったけど……」
「瑞紀ちゃん絶対見ると思ったから、チケット一枚プレゼントしようと思ってもらっておいたんだけど……残念、サプライズ失敗」
「なななっ……! そんなの、わたしなんかじゃなくもっと大切な人にプレゼントしてください!」
薄々感づいていることがある。
あの学食の一件以来、恭くんは前より積極的に、わたしとの距離を縮めようとしている気がするのだ。
呼び方もいつの間にか「武藤さん」から「瑞紀ちゃん」になっている。あまりに自然に移行していたので、指摘するタイミングを失ってしまった。
「何で? 俺にとって瑞紀ちゃんは大切な人だよ?」
「そっ、そういう言い方は誤解を生むから! “大切なファンの一人”ってことでしょ!?」
「ふふ、じゃあそういうことでいいや」