なぜか推しが追ってくる。




「ほ、本当にいる……」




土曜日。

約束の時間十五分前に駅前に到着したわたしは、顔を覆ってその場にしゃがみこみたくなった。



正直、ここに来るまで半信半疑だった。

恭くんは隣の席のオタクをちょっとからかっただけで、本当は来るつもりなんてないんじゃないか……と。

疑っていたというか、そうであってほしいとちょっと願っていた。




「あー……まじかぁ……」




どうしよう。心臓がバクバク鳴っている。

物陰にいるから、まだ恭くんはわたしが近くに来ていることに気付いていない。

しばらくここで気持ちを落ち着かせたいところだけど……ちょっとそうは言ってられない事情があった。




「っ」




わたしは意を決して恭くんの待つ場所まで全力で走る。そして彼の手首をガシリと掴んだ。




「ちょっとこっち来て!」


「……え、瑞紀ちゃん?」




驚いた顔をする彼を、そのまま人目につかない場所まで引っ張っていく。


そこで改めて恭くんの格好を見て、大きくため息をついた。




「~~っ! その伊達メガネで変装したつもりなの? 甘すぎ!」


「え……だめかな」


「オーラが全然隠せてない!」





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