なぜか推しが追ってくる。



何だって??

待てよ。ということは……

スクリーンの中の恭くんを静かに拝んでいた様子も、奥歯を噛み締めるのに必死でポップコーンを食べられていない様子も、全部見られていたと?




「は、恥ずかしすぎるんだけど」


「ごめんごめん。……ねえ、そんなことより」





そんなことよりとな。

全然悪いと思ってなさそうだな。許すけど。




「映画も終わったことだし、お昼ごはん食べに行こ?」


「え」


「お腹空いたでしょ? 瑞紀ちゃん何か食べたいものある?」


「え、いや……映画見たら帰ろうかなって思ってたんだけ……ど……」




言葉の途中。

そっと、手を握られた。


あまりに自然な動きで、抵抗する隙も与えられなかった。




「ごめんね。本音を言えば、映画が終わってから瑞紀ちゃんと二人でゆっくり遊びたいなっていうのがメインだったんだ。……だからお願い、帰らないで?」




そう言ってマスクをちょっと下ろしてみせた恭くんの口元に、いたずらっ子のような笑みが浮かんでいた。

こんなことを言われ、こんな顔を見せられては、わたしに許される返事はこの二文字しかない。




「は……い……」





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