なぜか推しが追ってくる。
……が、効果なし。
「そうそう。だから女の子とデートなんて初めてなんだよね」
はしゃいだような声で言って、オレンジジュースをまた一口。
……まあいいや。恭くんが楽しそうで可愛いし。
そう思ってボーっと見つめていると、恭くんは何を勘違いしたのか、飲みかけのオレンジジュースに目をやって尋ねてきた。
「一口飲む?」
「はっ!?」
びっくりして変な声が出た。
まさかと思うが恭くんは「間接キス」という概念を知らないのだろうか。
きっと、わたしがオレンジジュースを物欲しそうに見つめていると思って、親切心から提案してくれたに違いない。
だからわたしは、丁寧な言葉を使い謹んで辞退した。
こんな風に。
「なっ!? いや、だめむりでございます! 恭くんのお飲み物をわたくしめが穢すとかまじで◎$%~♪×¥●#」
一応断っておくと、わたしの国語の成績はそう悪くない。敬語の使い方も心得ている。
今のは単に、恭くんのオレンジジュースを飲むところを一瞬想像してしまい自己嫌悪に陥り、パニックを起こしただけだ。
そんなわたしを見て愉快そうに笑う恭くん。
推しの笑顔を引き出せたのだと思うと悪い気はしない。