なぜか推しが追ってくる。
──そんな恭くんが、思い出したように小さな紙袋を取り出したのは、そのオレンジジュースを飲み干した後のこと。
何か買ったのかな……と見ていたわたしに、恭くんは少しだけ不安そうに聞いてくる。
「ねえ瑞紀ちゃん。普段ヘアピンって使う?」
「ヘアピン? まあ、それなりに使うけど……」
「よかった。じゃあ、これ貰ってくれない?」
紙袋から出てきたのは、パールと花のモチーフが付いた、銀色のヘアピンセットだった。
「これは……」
「さっき雑貨屋さんで買ったんだ。瑞紀ちゃんに似合いそうだなって思って」
答えながら恭くんは、何のためらいもなくわたしの髪に触れた。
思わず身体が固まる。
されるがままになっていると、真剣な表情で髪を触っていた恭くんの表情が、やがてふっと緩んだ。
「よしできた。思った通りよく似合うね」
「なっ……あの……」
わたしは、恭くん自らの手で付けられた二つのヘアピンに触れる。
頬が熱くなってくるのが自分でもわかる。