なぜか推しが追ってくる。
「あのさ、瑞紀ちゃん」
わたしと同じように、広がる夕焼けに目を向ける恭くん。
ゆっくりと、そして少し緊張気味に、その視線をわたしの方に移動させた。
「俺はずっと、本気で好きになってもらいたいって思ってた」
「……え」
「それだけは、ちゃんと伝えたくて」
一昨日、わたしがうっかり口を滑らせた『本気で好きになっちゃう』という言葉への答えだと、すぐには気付けなかった。
意味を理解して呆然とするわたしに、恭くんは決定的な言葉を重ねた。
「俺は、瑞紀ちゃんのことが好き。もちろん、『大切なファンの一人』って意味じゃないよ。キミは俺にとって、特別な存在だから」
ドクンと、心臓が大きく鳴る。
“大好きな人に、特別な存在だと言ってもらえました”
普通だったら、何よりも嬉しい場面のはずだ。
だけどわたしは、「違う」と思った。
恭くんの言葉が信じられないとかじゃない。
演技する彼をこれまで誰よりも見て来たからこそ、断言できる。
今の恭くんは何も偽っていない、演技をしていない、素の彼だ。
だけど違う。
わたしにそんなことを思うのは……きっと勘違いだ。