なぜか推しが追ってくる。
「恭くんの初恋の人、“武藤瑞紀”なんて名前じゃなかったでしょ?」
そう言って、わたしは静かに目を伏せる。
本気で言っているからこそ。
恭くんは前に、わたしが初恋の女の子に似ていると言った。
──要するに、わたしのことが好きだというのはその初恋の延長なのだ。
そうじゃないと、ただのクラスメイトに過ぎない一般人のわたしなんかに、そんな気持ちを抱くわけがない。
「わたしは恭くんの初恋相手じゃない」
「……! 何言って……」
「その子とわたしを重ねて見てるなら、絶対、すごくガッカリするから」
これは断言できる。
だからお願い、惑わせるようなこと、言わないで。
頑張って新しい恋をして、気持ちを消して、純粋にただのファンだった頃に戻るんだ。……戻らせてほしい。
祈るような気持ちで恭くんの目を見る。
視線を受けた恭くんは、小さく「そっか」と呟いた。
「なるほど。俺のこの気持ちは、初恋を拗らせすぎたが故の勘違いだった。そういうことだね?」