なぜか推しが追ってくる。
意味をかみ砕くようにゆっくりと、淡々とした声で言う恭くん。
静かにうなずく。わたしの祈りは通じたらしい。
……よかった。
きっとこれで、学校でも今までのように話しかけてくることはないだろう。
ただのファンという以上の気持ちを持っているかもしれない相手に、勘違いさせるようなファンサは控えるはず。
寂しいなんて、思ったらだめだ。
今度こそわたしは、恭くんのことを遠くから応援でき……
「……なんて、納得すると思った?」
うつむきかけていたわたしは、はじかれるように顔を上げた。
恭くんは怒っているようにもショックを受けているようにも見える目で、わたしのことをまっすぐ見据えていた。
たじろいで、つい目を逸らした。
だけど彼は、それすら許さないとでもいうように、わたしの手をつかんで引き寄せる。
引き寄せられて恭くんとの距離は、彼の付けるレモンのようなさわやかな香水の香りを感じられるほど近くなる。