なぜか推しが追ってくる。
「推し」とカテゴライズすることで恋愛対象と成り得ない偶像をつくり、彼が転校してきてそれが難しくなると「クラスメイト」として一定の距離をとり、深いところまで見ないようにしていた。
そうだ。わたしは、天羽恭という一人の人間を見ることから、逃げていた。
彼に目の前から向き合うことで、気持ちに取り返しがつかなくなることを恐れて、逃げたんだ。
「わたし、さ」
ぎゅっと拳を握る手に力が入る。
「逃げ癖がついちゃってるみたいなの。いろいろと」
「……うん」
「恭くんがわたしを知りたいって思ってくれてるのは嬉しい。わたしを知って欲しいし、わたしも恭くんのことを知りたいって、今この瞬間は本気で思ってる」
「うん」
「だけど……きっとまた、自分を見せることからも恭くんを一人の人間として見ることからも、逃げようとするよ?」
「いいよ」
彼はうなずいた。
やけにきっぱりと、だけど嬉しそうに。