【コミカライズ企画進行中】透明令嬢の報復〜絶望の炎と甘い闇〜
二章 溢れる黒
そっと瞼を上げた。
「え……?」
見慣れた天井が視界に入り、息を止めた。
「……どう、して?」
そんな呟きは、埃っぽい部屋の中に消えていった。
窓からは薄っすらと陽が差している。
眩しさに影を作ろうと腕を上げると小さな手のひらが見えた。
(確か……私はあの屋敷から逃げ出してから倒れて死んだはずじゃ?)
そう思った瞬間に心臓が痛いくらいに音を立てていた。
胸元を掴んで、大きく息を吸い込んだ。
今まで感じたことのない感覚がして冷や汗が流れていた。
こんな風に自分に感情が残っていたのかと思うと驚きを感じていた。
長年、虐げられていたシャルロッテは今ではほとんど感情の起伏がなくなってしまっていたからだ。
ハリエットやイーヴィーからは散々、いじり甲斐がないとか、詰まらないとか言われていたが反応を返さない方がいいと判断して、そのまま感情が抜け落ちてしまった。
ボーっとしながら腕を押さえた。
そこには細い手首と侍女が乱暴に掴んだ鬱血痕だけが残っていた。
肌に指を這わすとたしかに温かい。