冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 トレバーは晩餐をともにしたかったらしいが、レティシアは何かと理由をつけて断っていた。

 自分のマナーが悪いのは分かっている。なにも婚前にそれを彼の家族の目の前で晒すことはない。だから、お茶だけということで了承した。



 トレバーがシュミット邸に迎えに来てレティシアは彼とともに馬車に乗る。気分が浮き立った。
 ところが、不思議とその馬車に既視感がある。レティシアの浮き立った気持ちは、なぜかすっと沈む。


 そして馬車を降りブラウン邸を仰ぎ見れば、それはあの悪夢の通りの家で。レティシアは逃げたくなった。しかし、さすがにそのような失礼な真似はできない。

 エントランスをとおりサロンに案内される。
 初めて来たはずなのに、全部知っていた。いや、わかっていた。家具の配置、においまで、寸分違わず、記憶にある通りで……。

「どうしたのレティシア? 顔色が悪いよ。具合が悪いの」

 震えるレティシアに気付きトレバーが心配する。優しそうな緑の瞳。それが、最後に見たときは残忍な色にギラギラと輝いていた。レティシアを牢獄に入れるまでどこまでも追ってくる。彼はとても怖い人。

 恐怖と極度の緊張で目の前が真っ暗になり、膝の力が抜けていった。


 目を覚ますとそこは寝台で……。この匂いも寝心地も覚えている。ただしレティシアの部屋のものより、天蓋の上から垂れる布は落ちついた色合いだ。ここは……。

 そこでハッと目を見開く。

「レティシア、良かった目を覚ましたんだね」

 トレバーが心配そうに眉尻を下げてレティシアを覗き込む。

 「いや! なんてこと」

(あれは悪夢ではなく、やはり記憶なの? 私は、一度死んで戻ってきたの?)

 それ以来、レティシアがブラウン家に足を踏み入れることはなかった。レティシアの中では悪夢として処理されている。だから、そのままにしておきたかった。

 これほど膨大な記憶をもたらす夢などあるのだろうか? 

 しかし、トレバーもミザリーも優しくて親切で、シュミット家の義父母とは上手く行っている。

 だから、レティシアはこの疑念をねじふせ、蓋をした。ミザリーとトレバーがあんな悪魔になるわけがないのだ。

 ただ、トレバーと結婚して、ブラウン家の領主館に行くのが怖い。だから、考えないようにした。

 彼に愛されている今を楽しみたい。


 
 
< 14 / 159 >

この作品をシェア

pagetop