冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 後退りするレティシアに構わず、リーンハルトはすたすたと近づいてきて彼女の手をぎゅっと握った。ものおじしない彼が少し怖い。でも握る手はあたたかくて。

 最初に彼をリーンと呼んだのは自分だと思い出した。

 日に日にリーンハルトと遊ぶことが楽しくなっていた。とても優しくて親切な義弟。彼はいろいろなことを知っていて楽しい話もしてくれる。字が読めないレティシアの為に絵本も読んでくれた。

「早く、リーンみたいにご本が読めるようになりたい」
「レティ、焦らなくても大丈夫」
 そう言ってまだ幼いリーンハルトが微笑む。

「ねえ、私が字が読めるようになってもリーンはこうしてご本を読んでくれる?」
 母は字が読めなかったので、絵本を読んでもらうのは初めてだった。
「うん、もちろん」

 その日から字を教えてくれるようになった。彼はレティシアがいた孤児院の先生や子供たちのように意地悪ではない、いつも笑っていてとても親切だ。それに家庭教師の先生よりも優しい。リーンハルトに字を習った方がずっと覚えやすい。

 だから、明日も楽しみだった。噴水の前で遊ぼうと約束した。彼の勉強が終わるまでそこでずっと待っていよう。
 その日の晩、レティシアが布団にもぐりこんだ頃、ミザリーがやって来た。彼女の横にはメイドのニーナも一緒にいて。

「ねえ、レティシア、あなたにしつこくされてリーンハルトが困っているわ」
「え?」

 何のことか分からなくて首をひねる。
 ミザリーが悲しそうにレティシアの手を握る。

「私の弟は、お父様とお母様から頼まれてしかたなくあなたと遊んでくれているのよ」
「そんなことないもん。リーンは私に綺麗な噴水を見せてくれるわ」
「え? あなた、何を言っているの? 字も読めないけれど、言葉も不自由なの?」
 不思議そうにミザリーが首を傾げる。

「だから、リーンは……」
 そこでリーンハルトに「秘密だよ」と言われたことを思い出し、レティシアは慌てて口を閉ざした。

「ねえ、ニーナも聞いたわよね。リーンハルトがレティシアを嫌がっているの」
「ええ、孤児院育ちの文字も読めないような子が義姉だなんてはずかしいとおっしゃっていました。でも仲良くしなければならなくて、とてもお辛いと」

「うそ、うそよ!」
 ミザリーがぎゅっとレティシアを抱きしめる。
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