冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
「お父様とお母様から聞いたわ。あなたはとても卑しい生れなのだってね。
 リーンハルトも姉弟になるのは耐えがたい屈辱だって言ってた。でもそんなものに施すのも貴族のつとめだからって我慢すると。
 それにあなたは食べ方も汚いから同じ食卓を囲むのは辛いって。
 かわいそうなレティシア。でも私は彼とは違うわ。いつでもあなたの味方よ。文字なんて読めなくていいじゃない。マナーなんて気にしないわ。大丈夫。あなたとずっと一緒にいるから。私はずっとあなたの味方だから。
 それでね、家族でもないあなたがリーンと呼ぶのはおかしいって。でもあなたは頭が悪くて言っても分からないし、常識も知らないからしばらくは我慢すると。それからこうも言っていたのよ。分不相応で図々しい……」
 
 ミザリーの口から一晩中紡がれる言葉に目の前が絶望と悲しみで真黒になる。

 ――もう、やめて!



 ◇

「レティシア!」
 体を揺すられ、名を呼ばれた。そこでレティシアは悪夢から覚めた。次から次に傷ついた辛い記憶がよみがえって来る。

「大丈夫か? 一気に思い出さなくていいから」
 そういってリーンハルトがハンカチで優しく涙を拭ってくれる。彼の青い瞳は不安に揺れ、触れる手は温かく、声は思いやりに満ちていた。

「私、私ったら、ごめんなさい。あなたに確かめもしないでミザリーの言うことを鵜呑みにしてしまった」
「違うよレティシア。それは精神操作をされたんだ」
「え?」

「今まで、思い出せなかっただろう? わざと傷つけ強い負の感情を植え付けたんだ。記憶を抑圧するほどの」
 ぎゅっとリーンハルトに手を握られる。

「レティシアは悪くない。文字が読めないことやマナーを知らなかったこと。そのコンプレックスを刺激して、僻みや妬みを育てたんだ」
 リーンハルトはそう言ってくれる。
「でも、それ、かからない人はかからないよね。だから私は」
 十三歳以前の自分は、義父も義母も義弟も傷つけた。

「違う。あの時のレティシアは孤独で傷ついていた。それを利用されたんだ。だから悪くない。それよりもミザリーやニーナの様子に気付かなかった、俺たちが悪い」

 義父母も義弟もそんなふうに思ってレティシアに謝罪したのだ。

「なんてこと……。あなた達は誰一人悪くない。そんなふうに言って欲しくない」

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