冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
「大丈夫だよ。慣例みたいなものだから」
といってリーンハルトは笑う。
 
 その後、海は荒れることなく一等船室でのんびりと一週間に渡る船旅を楽しんだ。しかし、下船後は自分達で交通手段を得なければならない。

 レティシアは自国に比べてだいぶ殺風景な港町にびっくりした。大きな宿屋も立派な飯屋もなさそうだ。大方観光客など来ないのだろう。ここはアラスタ王国の王都から随分離れた辺鄙な場所なのだ。

「まず馬車を借りなくちゃね」
 寂れた港町でレティシアが少し途方に暮れて呟く。
「俺は乗合馬車がいいと思う」
「えーー! 本気で言ってるの? 遠回りにならない?」

 てっきり馬車をかり御者を頼むのかと思っていた。

「問題ない。下調べはしてきたから。最短距離のはずだ。それにここら辺りには追い剥ぎも出るらしいから、個人で馬車を借りるのは危険らしい。レティシアがいるから野宿しないで行こうと思う」
 
 辺りはレティシアが思っていたよりずっと田舎で、討伐隊でいった辺境の地を思い起こさせる。つまり、金はあっても使いどころがない。よって贅沢もできないのだ。

「別に平気よ。野宿ぐらい」

 本当は気が進まないが、旅程が遅れるよりもましだ。シュミット家は長年の功績がありお咎めなしだったのだから、国に帰ればリーンハルトにはきっとエリートへの道が待っている。
 そのうえリーンハルトは先の討伐隊の功労者だったわけだし、悠長に旅をしている場合ではない。

 しかし、義弟は全くレティシアの話を聞いていない。すたすたと歩いて行ってしまう。

「レティシア、あの馬車だ! これを逃すと半日待つぞ。走れ」
 リーンハルトがレティシアの荷物を持って走り出す。

「ちょっと待ってよ。リーンハルト!」
 足の速い彼を慌てて追いかける。

 義弟が妙に生き生きしている。彼は意外に辺境が好きなのかもしれない。
 そういえば、リーンハルトは旅の途中からだいぶ元気を取り戻していた。



 ◇

 陸路を進むこと十日以上、やっとミザリーの故郷であるトラシュの街についた。しかし、そこは街とは名ばかりで。

「畑ばっかり、これで人が住んでいるのかしら?」
「いや、畑があるんだから、人は住んでいるだろ」
 リーンハルトがまぜっかえす。

「ち、違うわよ。比喩よ。例えだから!」
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