冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
「だが、そのドーソン家に仕えていたという執事の顔を修道女たちは誰も知らなかった。そして出発のときミザリーは帽子を目深にかぶり、一度も顔を上げなかったという。背格好がアンと同じだったんだ。ありえなくはない。それでないのなら、レティシアの言う通り船上かな?」

 そう言いながら、リーンハルトが紅茶を二人分注文する。ちょうど、二杯目が欲しかったところだ。気が利く義弟だ。

「結局、ミザリーって何だったのかしら」
「ラクシュアから、何か事情があってこの国に流れてきたのだろ」

 リーンハルトの言葉に驚いた。

「え? どうしてそんな話になるのよ」
「ラクシュア語が訛りもなくすぐに話せるようになったんだ。それこそ三月(みつき)とかからなかったと聞いている」
 その言葉にレティシアはぞくりとした。
「そうか、そうよね。言葉が違うもの。子供にしても早すぎるかも」
「何か母親がまずいことをしてラクシュアにいられなくなり、この国の田舎まで流れてきたんだろ。ミザリーは頭がよかったから、その時は優秀な人なのだと思ってしまったが、今思うと知識がアンバランスだったし、いろいろと不自然だった。多分話せない芝居をしていたんだろう」 

 二人は運ばれてきた熱い紅茶に口をつけ、一息つく。リーンハルトが帰る気になってくれてよかった。

「いずれにしてもアンはミザリーより三つ年上だったのよね」
 修道女の話によるとアンは年齢より発育が随分遅かったという。

「俺が初めて会った時、彼女は十歳くらいか。ああ、まったく気づかなかった」
「というか、あなたその頃まだ四つだし」

 四歳児が見破るなど無理だろう。

「とはいえ、その後もずっと気付かなかった」

 リーンハルトがいらいらと足を組み替える。
 レティシアはのんびりと薄い紅茶を味わった。早く自国の美味しいお茶が飲みたい。

「十歳ならば養子縁組を隠したいと言っても分かるかも」
「知恵がまわるわけだな」
 
 レティシアはため息をつき、リーンハルトは髪をかき上げる。

「くそ、してやられた」
 よほど悔しかったのか義弟が悪態をつく。
「何よ、一回騙されたくらいで」

 レティシアの余計な一言で、またいつも通りの言い合いがはじまり、二人は緩やかに日常に戻っていった。




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