冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?

今度は……

 

 事件から半年が過ぎる頃、レティシアは領地から王都に戻ってきたエレインと会った。
 彼女は大親友ではあるが、ミザリーの事は機密事項なので話せない。

「残念ね。お姉さまがお亡くなりになったのでしょう? 突然のことで驚いたわ」

 エレインがお悔やみを言ってくれる。
 レティシアは心苦しかった。偽物のミザリーは処分される前に加齢が止まらず亡くなったのだ。
 そこに安らぎはなかったという。

 稀代の呪術師の憐れな末路だ。



 彼女は才能の使い方を間違えた。レティシアと一緒でたくさん間違えた。だが、彼女にやり直しの機会はない。己を捨て、別人として生きて死ぬ。強烈な自己否定。
 レティシアのなかの悔しさや憎しみは風化していき、最後に憐憫の感情が残った。

「そっちはどうなの? 新婚生活」
「年の三分の一は領地に籠らなければならないからその間会えないの。だから、ぼちぼちってところかしら」
と言いつつもエレインは幸せそうだ。

「よかったね」
「うん、まあね。それより、レティシアの方はどうなのよ?」
「私? ぜんぜん。やっと仕事に慣れたところ」
「あら、結婚するんじゃないの? もちろん、私には一番に教えてくれるわよね」
「そんな話出ていないけれど」
というとエレインが不思議そうな顔をする。

「でもあなたリーンハルト様と二か月間も旅行に行っていたって」
そういえば旅行ということになっていた。

「そうねえ。田舎ばかり廻ったわ。来る日も来る日も荒野と畑ばかり」
 うんざりしたように言う。

 しかし、相手がリーンハルトとなるとそれなりに楽しく、彼と二人で異国の地を歩くのは新鮮だった。レティシアはずっと繰り返していたので、十九歳以降のリーンハルトを知らない。彼はこんなふうに成長していくのかと思うと感慨深いものがあった。想像していたよりずっと逞しい方向だったが、悪くないと思う。

「変わった婚前旅行ね」
 エレインの言葉にレティシアは飲んでいた紅茶をむせた。
「はあ? 婚前? なんで!」
 その後、エレインから聞く王都に流れている噂にレティシアは青くなった。


 ◇


 家に帰るとリーンハルトを待ったが、その日は遅くなかなか帰ってこなかった。彼は王都に帰ってから、学園に王宮にと忙しく、最近ではゆっくり話す間もなかった。

 自室にこもり悶々としているとドアをノックする音がしてリーンハルトが入ってきた。
「俺に何か用? ずっと待っていたって。ちょっと庭に出ない? あの池まで散歩しよう」
 
 レティシアは彼の提案に目を瞬いた。あの池とは二人の思い出の場所だ。
「でも、もう遅い時間よ」
「たまにはいいだろう。ここの所ずっと会えなかったんだから」

 二人は連れ立って庭に出た。こうして一緒に歩くのはミザリー探し以来だ。
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