冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
しかし、ことはそう上手く運ばなかった。最近義母オデットのあたりがきつくなってきた。
一時期は上手く行っていたのに、遊びまわるレティシアが気に入らないのだ。
このままでは困るとレティシアは思った。彼女に嫌われるのはつらいし、嫌だった。そこでレティシアは無い知恵を振り絞る。
義母は刺繍が好きだ。レティシアが遊びまわる前はよく一緒に刺繍をさした。社交に比べれば、つまらなくて退屈な時間だったけれど。
「ニーナ、街へ行く支度をしてくれる?」
アナはもう結婚してしまっていないので最近はもっぱらニーナに用事を言いつける。そう、あの悪夢通り、アナは十七で結婚した。そのことで、レティシアは時折混乱し、不安に見舞われる。
(でも、きっと大丈夫。私は上手くやっている。それに、これはやり直しなんかじゃない)
◇
レティシアは、ニーナに外出の準備を促した。伯爵家の令嬢が一人で買い物に行くわけにはいかないので、彼女を連れて行くしかない。
それに身の回りをしてくれる者を連れて買い物するのは楽だ。面倒くさいことは全部やってくれる。
「はい、あの、お嬢様どちらに行かれるのですか」
ニーナが戸惑ったように言う。いま忙しいのかもしれない。しかし、彼女の予定にいちいち構っていられないし、あの悪夢のお陰でどうしてもニーナが好きになれない。
「刺繍糸を買いに行くのよ。それと布を少々」
「まあ、ハンスに頼めばいいではないですか」
やはり迷惑そうだ。ハンスはこの家の執事見習いで、足りないものがあるとたいてい彼が用意してくれる。
「今回は違うの。お義母様へのプレゼントだから、自分で買いに行って、選ばなくちゃ」
ニーナを急き立てるように外出の準備をした。
しかし、馬車に乗り込み、いざ店に行ってみると、どれを選んでよいのか分からない。
刺繍などまったく興味がないからだ。とりあえず一番高価で、華やかな色合いなのものを店員に包ませた。
これを持ってオデットの元にいき、
「お義母様と、久しぶりに一緒に刺繍がしたいのです」
そう言えば、すぐに機嫌を直すし、以前のようにかわいがってもらえる。
しばらく社交は休んで家にいよう。