冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
早々に買い物を済ませ、馬車に乗りこもうとすると、
「レティシア嬢ではないですか?」
と声をかけられた。
往来の向こう側にアーネストが立っていた。すらりとした立ち姿、帽子を取り、品よく挨拶し、優しく微笑んでいる。
偶然の出会いにレティシアは驚いた。
「まあ、アーネスト様、偶然ですね。どうなさったのです?」
穏やかで気遣いの出来る彼が好きだ。それにリーンハルトやトレバーのように気位の高いところがない。少しどきどきする。
「いま、買い物をすませたところでね。君は?」
「私も、今日は刺繍の材料を買いに来たのです」
アーネストに会えたことは純粋に嬉しかった。濃茶の髪も瞳も優し気で、少し年上だが、若々しく気さくな雰囲気で親しみやすい。
「そうだ。ここで会ったのも何かの縁だろう。一緒にカフェに行かないか?」
「え?」
「私もちょうど用事がすんだところで、コーヒーが飲みたくなってね。君は義妹になるわけだし、よかったら」
そういって未来の義兄が微笑む。
「ニーナ、あなたは、先に馬車に乗って、帰っていて、私はアーネスト様に送っていただくから」
「お嬢様、それはいけません」
ニーナがぎょっとしたような顔をして、慌てて止める。
「どうして? アーネスト様はお義兄様になる方よ? 一緒にお茶を飲んではいけないの?」
レティシアは心底、不思議そうに首を傾げた。家同士のつながりを考えても親しくしていた方がいいはずだ。