冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
ループ2
カーテンの開く音で目を覚ます。柔らかい日差しが差し込み、そこはいつもの天蓋付きのふかふかのベッドだった。
あまり良い事のない人生だったけれど天国に行けたのだろうか?
「お嬢様、もう昼になりますよ。お食事されませんと」
メイドの言葉に覚醒する。目の前にアナの顔があった。この光景、見たことがある。レティシアは驚いて飛び起きた。
するとミザリーが心配そうにレティシアを見る。
「駄目よ、レティシア、急に動いては、あなたはひどい熱で寝込んでいたのよ」
そう言ってミザリーがレティシアに手を伸ばす。
「やめて触らないで!」
ぞっとして縮こまった。ミザリーとアナがレティシアの様子に驚く。
「レティシア……?」
「お嬢様、いったいどうなさったのです! 寝ぼけているのですか?」
アナが驚いたように言う。
「いいのよ。アナ、レティシアはまだ体が辛いのよ」
そう言うとミザリーは肩を落として部屋を出ていった。ミザリーは、ずっとレティシアを心配してついていたのにと、アナに非難がましく言われる。
その時、ふわりと、窓辺に飾られた花が風に揺られた。
「あのスイートピーは、ミザリーからね」
「はい、そうですが……」
いつになく察しの良いレティシアにアナが瞬きをする。
「ねえ、アナ、今私はいくつなの?」
アナはしばし固まった後、十三歳だと教えてくれた。
時間が遡った。
レティシアは鏡の前に行って恐る恐る自分の姿を確認する。階段から落ちたはずなのにどこにも傷はないし、体も痛まない。そして幼くなっている。
やはり、あれは悪夢などではなく、レティシアは本当に階段から落ちて死んだのだ。どういうわけか、人生をやり直している。そして二度目も二十歳を目前に亡くなった。
二度もミザリーに殺された。
彼女から殺したいほど憎まれている。その原因を解明しない限り、また同じことの繰り返しなのだろうか。
これから、どうする?
◇
風邪がよくなり体力は大分回復してきたが、食欲がなくて一日中ベッドにいた。
しかし、このまま閉じこもっているわけにもいかないので、仕方なく家族そろっての夕食に出た。
何度人生を繰り返しても、レティシアのマナーはひどく義父母も顔をしかめたが、言っても無駄だとわかっているのか何も言わない。
するとリーンハルトが
「レティシア、そんなに大きな音を立てて恥ずかしくないの? だいたいスープはすするものではないだろう?」
という。
十二歳の義弟に叱られた。いつもなら、ふんとばかりに睨みつけて聞き流すところだが、今回は前回の喧嘩を引きずっていた。レティシアにしてみれば「男に媚ばかり売る」と彼に言われたばかりだ。いくら見た目が幼く天使のようでも我慢ならない。
「うるさいわね。だから、何だっていうのよ! 生まれたときから、家族に家にも恵まれているくせに、外のことなんて何にも知らないくせに偉そうなこと言わないで!」
(そうだ。リーンハルトはゴミ溜めのような下町の孤児院でひもじさに苦しんだことなどない)
レティシアの暴言にリーンハルトが食事の手を止め、子供にしては鋭い目で、彼女を射すくめる。一瞬気を飲まれた。
「確かにそうだね。あなたの母親は貧民街の酒場女給だったのだから、そんな環境で育ったあなたはマナーも悪いはずだよね。ほんと最低だ」