冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 これには本当に頭に来た。自分を馬鹿にする分には構わないが、母スーザンはとても優しい人だった。貧しい生活だったが、とても幸せでいい思い出しか残っていない。寒い夜だって、母と一緒に布団にくるまれば、温かだった。母の優しい匂い、温かい感触。リーンハルトにそれを汚す権利はない。

「ひどい! あんたなんかに母さんの何がわかるのよ!」

 もっと罵倒してやりたいのに、喉がつまってそれ以上言葉が出てこない。腹が立って、フォークをリーンハルトめがけて投げつけた。当てるつもりはなかったが、フォークは彼の頬をかすめた。白皙の頬に血がにじむ。
 
 レティシアはハッとした。けがをさせるつもりはなかった。リーンハルトが目を伏せてさっと頬を染める。
 怒ったの? それとも泣くの?
 レティシアは彼からの次の攻撃に身構えた。

「ごめんなさい、レティシア」
「え?」

 リーンハルトの口から、ポツリと素直な謝罪の言葉が零れ落ちた。

(嘘でしょ? あのリーンハルトが初めて謝った。かれこれ三回目で初めて聞いた。フォークを投げたから、恐れをなしたの?)

 今度はレティシアが固まる番だった。

「レティシア」

 いつの間にか横にミザリーが立っていた。彼女がハンカチを差し出す。その時になって初めてレティシアは自分がぼろぼろと泣いていることに気付いた。嗚咽で声が出なかったのだ。
 頭に来たのではなく、本当は傷ついて、悲しかった。精一杯の虚勢。


 レティシアのせいで家族そろっての食事は台無しになった。そしてミザリーが、やはり今世でもレティシアを庇う。

「レティシアなりに、一生懸命この家に馴染もうとしているのよ。だから、温かい目で見てあげましょう」
と、しかし、今度ばかりは騙されない。レティシアはミザリーの親切ぶった態度に寒気がした。

(本当は私の事、殺したいくらい嫌いなくせに)

 憎らしく思うのと同じくらい恐怖が先に立つ。それなのに、どこかでこの時点は嫌われていないのではと期待してしまう。二回も殺されたのに。気持ちはとても複雑に揺れ動く。



 その晩、まんじりともせずに、レティシアなりに考えた。このままでいいのだろうかと。

 義弟にひどいことをしてしまった。あの綺麗な顔に傷をつけた。そして、彼は詫びてくれたのに、レティシアは謝っていない。

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