冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 そういえば、リーンハルトは前回も前々回もレティシアの母の悪口をあんな風にはっきりと口に出したことはなかった。「お里が知れる」などの当てこすりはあったが。

 彼の立場なら、いくらでもレティシアを蔑むことができるのに、リーンハルトはそうはしてこなかった。
(それなのに、私は……弱いことを、恵まれていないことを武器に相手を傷つけた)
 ジワリと罪悪感がこみあげてくる。

 この家に来てから初めて行った他家の茶会のこと思い出す。レティシアは十二歳だった。カップはひっくり返すし、菓子は食べこぼす。さんざんで、とうとうミザリーの友人達に囲まれて注意された。

 ミザリーが一生懸命庇ってくれたけれど恥ずかしく席を立ち、慌てて慣れないドレスの裾を踏んで転んだ。それ以来茶会が嫌になった。

 いや違う。問題は転んだ後だ。リーンハルトが、手を差しのべてくれた。騒動を見て驚いた彼が、助け起こそうと駆け寄って来てくれたのだ。

「あんたもあたしを馬鹿にしているんでしょ!」

 大声で罵倒した。

(ああ、そうだ。差しだされた彼の手を、私は皆の前で思い切り打ったのだ)

 助けてくれようとした彼を被害者の皮を被って傷つけた。どうして忘れていたのだろう。

 天使のように綺麗でかわいらしくて、あの頃の彼は小さな紳士だった。

 


 翌朝、レティシアは執事にオスカーの都合を聞いて執務室へ訪れた。

「珍しいな。お前の方から訪ねきてくれるのは初めてだね」

 そう言って義父は笑みを浮かべる。嫌がられてはいないようだ。昨日あんなことがあったのに。しかし、それも子供のうちだけだろう。後、二、三年もすれば、昨日のようなことは許されない。変わらなければ。

「あの、お父様、今日はお願いがあってきました」
「なんだ」
「私に家庭教師をつけてほしいのです」

 オスカーが驚いた顔をする。

「前にもつけたが、お前は嫌だと言って、三月でやめてしまったが、どういうつもりだ」

 訝し気に問うてくる。それも当然だ。以前はいくらやってもできなくて癇癪を起してやめてしまったのだから。

「今度は頑張ります。みなと楽しくお食事したいから。だからお願いします」

 レティシアは頭を下げた。
 
「途中で、やっぱり、嫌だと言っても困るのだが……」

 義父は言いよどむ。

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