冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 レティシアが部屋へ入るとまだ幼さを残すリーンハルトがぎょっとしていた。さらさらで柔らかそうな金髪が陽光をうけきらきらと輝く、驚いて大きくみひらいたアイスブルーの瞳が愛らしい。

「どうしたんだ? 流感でねていたんじゃないの?」
 寝巻姿にガウンを羽織ったレティシアの元に彼が駆け寄って来る。
「うん、もう熱はさがったから、大丈夫」
「大丈夫なわけないでしょ? ふらふらしているじゃないか」

 そう言って、まだ小さく華奢な体で、レティシアを支えようとしてくれる。義弟が優しい。そう彼は基本優しい子なのだ。

「リーンハルト、今までごめんなさい。あなたにひどい事ばかりしてきたわ。初めての茶会で、私が転んだとき、あなたが助け起こそうとしてくれたのに、ひどいことを言って、あなたの手を打ってしまった。本当にごめんなさい。それにあなたにフォークを投げつけて頬を傷つけた。痛かったでしょう」

 レティシアは跪いて謝った。たっているより、跪いた方が楽だったからだが、リーンハルトはそうは取らなかったようで、

「姉さん、やめてよ。顔を上げて。それにフォークってなんのこと?」
 
 リーンハルトが青く澄んだ目を瞬く。

(ああ、そうか、このリーンハルトには、過去の過ちをすべて詫びることは出来ないんだ)

 レティシアはそんな簡単な事に今更気付く。彼の白皙の頬を傷つけたあの出来事は、もう許しを乞えないのだ。体がまだ辛いので、地べたに額をつけて謝るレティシアの頭をリーンハルトが小さな柔らかい手でしきりと起こそうとする。

「それに、私、あなたのお菓子やデザートを勝手に食べたりして、本当にごめんなさい」

 我ながら彼にはひどいことをしてきたと思う。そういえば、ミザリーにはそんな仕打ちをしたことはなかった。

(あれ? リーンハルトの方がよっぽど私の被害をうけていたの?)

 なぜか義弟に対しては執拗にむきなって突っかかっていたような気がする。

「何を言っているんだ。姉さん、僕たちは姉弟じゃないか。別にそれくらい構わないよ」
 真摯な様子で言ってくる。
「ありがとう、こんな私を姉とよんでくれて」

 リーンハルトは優しくて心が広い。拍子抜けするほどあっさりと許してくれた。肩の荷が少しおりたと同時にレティシアはそのまま具合が悪くなって意識が飛んだ。



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