冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 そう言ってリーンハルトが微笑む。才能に恵まれている彼は、不思議と人の努力を認め尊ぶ。一を聞いて十を知る彼は、いくら勉強しても出来ないレティシアを馬鹿にすることはなかった。


 ダンスを申し込んでくる殿方もいないでの休憩することにして、もう一度壁際へもどる。理不尽に感じつつもとにかく目立たないことを心掛けた。ミザリーの目につかないようひたすら行動を慎んだ。


「疲れてしまいましたか?」

 会場の隅で、ぼうっとしていると、声をかけられた。顔を上げると、トレバー・ブラウンだった。記憶にある通りの茶色の髪に緑の瞳、整った面差し。彼を見た瞬間懐かしさがこみあげて来て泣きそうになる。一度は不幸な結婚して、二度目は優しい婚約者だった人。三度目はすれ違っただけ。

「申し訳ない。いきなり声をかけたりして」

 トレバーが涙ぐむレティシアの様子に慌てた。

「いえ、ごめんなさい。なんでもないの」

 レティシアは首を振る。彼とは今回も縁を結ぶことはないだろう。
 その後、トレバーに誘われ一度だけ踊る。一人でいるレティシアに気を使ってくれたのだろう。

 

 舞踏会のあった三日後、レティシアはオスカーの執務室に呼ばれた。最近は怒られるようなこともしていないので、何だろうと思い、入室する。

「レティシア、お前が職を得たいと考えているのは分かっている」
「はい」

 なぜ今更義父はそんな確認をするのだろう。

「実はブラウン子爵家から、お前に婚約の打診があった」
「え?」

 驚き、レティシアの心は揺れる。彼が、自分を選んでくれたのかと嬉しい気持ちはある。いや、結婚は家同士のものだから、それはないのかもしれないが。

 だが、トレバーとやり直したい。正直そんな気持ちもある。二回目の人生でミザリーに殺されることなく、結婚していたらどうなっていたのだろう? やはり、あのままでは上手く行かなかったかもしれない。だが、もう一度結婚したならば……。

 前回と父娘の関係性がかわったせいか、いきなりの顔合わせではなく、オスカーは事前にレティシアの意思を確認しくれている。
 信頼され、尊重されているのだと思うと嬉しい。


 考えた末、答えが出なくて義弟に相談することにした。
 学園のカフェテラスでランチをとっているリーンハルトを捕まえ、婚約の打診の件を相談する。

< 59 / 159 >

この作品をシェア

pagetop