冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 


 月日が過ぎゆくなか、レティシアは相変わらず社交もせず引きこもりがちな生活を送っていた。生々しかった悪夢の記憶も薄れてきた頃、晩餐の席で驚くべき知らせを受ける。

 いつものように、レティシアだけが食器の音をガチャガチャさせて食べていると、そろそろ十四歳になる生意気な義弟リーンハルトが不快そうな顔を向けるので睨み返していると、義父オスカーに声かけられた。

「レティシア、お前の婚約の件なのだが」
「え?」

 レティシアのその態度に、義母オデットがその美しい眉間にしわを寄せる。

「レティシア、お父様に対してその態度はないでしょ。きちんと返事をなさい」
 
 いつものオデットのお小言が始まり、レティシアは不貞腐れた。どうせ自分は出来損ないの遠い親戚だ。
 
 ここの姉弟のように美しくもないし、賢くもない。二人ともオデットの美貌を引き継ぎ、艶やかな金髪を持つ。ミザリーは薄茶の瞳、弟のリーンハルトはオスカーと同じ青い瞳を持ち二人とも天使のように綺麗だ。 
 それに引き換え、レティシアは白髪と見紛う銀糸の髪に、紫色の瞳。数年前にいた孤児院では気持ち悪がられ「幽霊」と呼ばれていた。

「私に縁談?」
 
 きっとていのいい厄介払いなのだと思った。この家ではマナーもろくに身につかないレティシアを持て余している。

「明日、ブラウン子爵令息と顔合わせだ。話はそれからだ」
 (ブラウン子爵……まさか、トレバー?)
 レティシアは飲み込んだスープでむせて、義弟に睨みつけられた。いつもなら、睨み返すところだが、今日はそれどころではない。
 父の話はまだ続く。

「明日の午後、うちのサロンに来ることになっている。心づもりしておくように」
「まあ、良かったわね。レティシア」

 ミザリーが上品な笑みを浮かべる。
 
 現在十六歳の彼女には十歳年上のアーネスト・コーエン伯爵という婚約者がいる。もう家督を継いでいる彼は、落ちついた物腰の穏やかな紳士で、行儀の悪いレティシアにも親切だ。

 その夜、さすがにレティシアは眠れなかった。
(ブラウン子爵……まさかあの悪夢は本当のこと? いやいや、ブラウンなど良くある名前だし、きっと偶然だ) 

 レティシアはベッドの中でひたすら否定し続けた。

 しかし、次の日、サロンで対面したその人は、将来夫となり、レティシアを鬼のように追いかけて牢屋にぶちこむ、トレバー・ブラウンその人だった。

 レティシアは茶を飲みながら、これまでないほど、頭を働かせる。その間にも両家の挨拶は進み、夢にある記憶のとおり、彼は綺麗なガーベラの花束をレティシアに贈った。

(あれは悪夢ではなかったの?)


 



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