冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 親子の周りの水を凍らせたそうだ。その後リーンハルトは魔力を使いすぎて倒れたという。そんなことがあったなんて同じ家に住みながら知らなかった。きっとそれはレティシアのループが始まるよりもほんの少し前の時間なのだろう。別に十三の誕生日に戻っているわけではないのだから。あの頃は自分の事で手いっぱいで、自分しか見えていなかった。当然リーンハルトが寝込んでいたことにも気づいていなかったのだろう。

「そのとき魔法ってすごいんだなと思いました。彼がいなければ、僕も母もあの時死んでいたし、シュミット家の支援がなければ、この学校には通えていなかった」

 レティシアはずきりと胸が痛んだ。彼の人生を捻じ曲げたのは自分かもしれない。いずれにしてもアランがレティシアを守ろうとしてくれたのは、リーンハルトのためなのだろう。
 あの頃は自分の悲劇に酔っていて、従者など芝居の書割に過ぎなかった。今まで彼を知ろうともしなかった自分が本当に恥ずかしい。

(死にたくはない。でも私には誰かが命を賭してまで守るほどの価値もない)

 善良なアランはレティシアに巻き込まれて殺された。

「だから、僕はいつかご恩返しをするつもりです」
「それはいけません!」

 慌てて遮る。

「え?」
「リーンハルトはきっとそんな事、望んでいません。だから、あなたは、自分の思う通りに生きたらいいのです」
「いえ、あのそれは」
「私も、シュミット家に救われました。それにこの学校に入れたのはリーンハルトのお陰なんです」
「それはどういう事です」

 アランが目を瞬く。

「確かに私はシュミット家の親戚ですが、彼らが引き取る必要のないほど遠縁です。そのうえ貧民街で育ちました。だから、養女にしてもらえなければ、私はきっと飢えて街の片隅で死んでいたことでしょう」

 レティシアが早口で真実を伝えると、アランの瞳は驚愕に見開かれた。

「養女という事は皆さんご存じでしょうが、貧民街の出だということは隠されています」
「どうして、あなたはそんな大切なことを僕に」
「あなただって話してくれたのに、私が話さないのはフェアではないから。
 それに、義父もリーンハルトも見返りを求めて誰かを助けるわけではありません。だから、あなたはご自分とお母様との人生を大切になさってください。ごめんなさい。なんだか口幅ったい事を言ってしまって」

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