冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
「だから、仮定だよ。光属性を持つ姉さんは、無意識的にそれを打ち消しているのかなと、だから殺されると時間が戻る現象が起こる……仮説だけれど。まあ俺は鮮明な悪夢だと思うよ。だいたい姉さんにそんな呪いをかけて得する人間がいるとは思えない」
 
 そう言ってリーンハルトが肩をすくめる。得する人間、呪い、そのような視点で考えたことはなかった。

 いっそ起きたことをすべて義弟に話してしまいたい気になる。リーンハルトはレティシアよりずっと頭がいいし、いろいろなものの見方ができるようだ。彼なら解決できるかもしれない。しかし、思いととどまった。

 いくら何でも荒唐無稽すぎるし、話すとしたらミザリーのことは避けて通れない。そんなことをすれば信頼もなくすし、嫌われるだろう。

「何にしてもありがとう。私のしようもない悪夢を調べてくれて。後は勉強に集中してね」

 たまには姉らしいことを言ってみる。

「頑張るのは姉さんの方でしょ? Dクラスに落ちたらどうするつもり? 最近図書館でも勉強しているより、ぼうっとしている時間の方が長いんじゃない?」

 どこかで、レティシアの行動を観察していたのだろうか。彼の言うとおりだ。そして彼はなおも言葉を継ぐ。

「少しは身を入れて勉強しなよ」

 ぴしりと言われ、せっかくのタルトがまずくなりそう。最近のリーンハルトは次期当主として威厳が出てきて少し怖い。

「レティシア」

 そこへ聞き覚えのある声が割り込んでくる。この場で聞くはずのない声に驚いて見上げる。トレバーが立っていた。

「あれ、トレバー様、どうして?」

 彼はこの学校には通っていない。

 魔法師の勉強をするのは平民や貴族の嫡男以外が多く、リーンハルトは珍しい部類に入る。
学園には研究機関もあるので関係者以外立ち入り禁止となっているが、トレバーはレティシアの婚約者として来たのだろう。そういえば、前にそんなことを言っていた。

「今日は勉強するレティシアを応援しようと思ってね。差し入れを持ってきた」

 彼は王都で今話題の焼き菓子店の包みを持っていた。そんなトレバーにリーンハルトは丁寧に挨拶し、「後はお二人でどうぞ」と言ってにこやかに微笑んで席をたつ。

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