冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 そういって彼を宥めた。不思議とトレバーはレティシアを常に自分のそばに置いておきたがる。二巡目の人生で彼がやきもちをやくこともあったけれど、どちらかというと二人で遊びまわっていた。束縛などされずに。

 二人を乗せた馬車がシュミット家の門扉の前で止まる。そこには守衛となぜかリーンハルトが立っていた。

 馬車から降りるとリーンハルトとトレバーが挨拶を交わす。十八歳になった彼は最近とても大人になった。少し寂しいくらいに。

「遅くまでレティシアを連れまわして申し訳ない」
「いえ、お気になさらずに」
 
 二人が和やかな雰囲気の中で言葉を交わす横でレティシアはあくびをかみ殺した。昨日も勉強で夜遅かった。せっかく職が決まっても卒業できなくては話にならない。早く部屋に戻りたかった。

「お茶でもといいたいところですが、今夜は姉も疲れているようなので」

 察しのいいリーンハルトがそう言ってくれてほっとする。

「確かにあなたのおっしゃる通りかとは思いますが、随分姉に対して過保護なのですね」

 僅かに硬い口調でトレバーが切り出す。 

「過保護というと?」

 リーンハルトが片眉を上げるのを見てレティシアはぎくりとする。今彼が気分を害したのがわかったからだ。

「ふふ、門扉まで迎えに来るなどと驚きました。これからはもう少し早い時間にお送りします。ご心配をおかけして申し訳ない」

 二人ともにこやかなのに、緊張感が高まる。

「そうですね。姉も忙しいのでそうして頂けると助かります」

 気のせいだろうか、笑顔なのに二人がにらみ合っているような気がする。レティシアは不安な心持ちだ。
 その後、別れの挨拶をしてトレバーは去っていった。
 振り返ったリーンハルトは
「姉さん、疲れて帰りたかったら、自分でいいなよ」
と不機嫌そうに言う。
「え、あ。ごめんなさい」

 少し義弟が怖かったので素直に謝る。今世でもリーンハルトに頭が上がらない。姉らしいことをしたいと思うのに、ちっとも上手く行かない。

「まったく、まだ嫁入り前の娘を深夜まで連れまわすだなんて、彼も非常識だな」

 レティシアはこの時リーンハルトが他人を非難するのを初めて聞いた。それもまるで父親のようなことを言う。しかし、レティシアを心配して待っていてくれたのだ。

「ねえ、そんなに私のこと心配だった?」
 少し嬉しくなって聞いてみる。

「最近、とくに様子がおかしいからね」
「おかしいかしら?」
「何をしても上の空、それでは相手にも失礼だし、不安にもなるだろ」
 
 確かに彼の言う通りだ。トレバーをあまり不安にさせてはいけない。

「そうね。気を付ける」
「姉さんの気を付けるは軽いからな」

 そう言い捨てる。なんだか今日のリーンハルトは辛らつだ。少し悲しくなる。
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