冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 作業に集中していると、コンコンコンコンとせわしなくドアをノックする音がしてレティシアは驚いて飛び上がった。

「姉さん、俺だよ」

 ガチャリとドアが開き、現れたのはリーンハルトだ。一瞬彼に殺されるのかと思ったが、そんなわけはない。丁度心細かったので嬉しい。

「リーンハルト! いらっしゃい。珍しいわね。作業棟に来るなんて」

 レティシアが大喜びで駆け寄ると彼が不機嫌そうに目を眇める。

「なに、能天気なこといっているんだよ。もうすぐ花嫁になるっていうのに。婚約者をほっぽり出してなにしてるのさ」

 最近リーンハルトは婚約者にもっと会えと煩いが、ちゃんと一週間に一度は一緒にすごしているし、式の準備も進めている。

「なんだ。お説教にきたの?」

 途端にがっくり来た。しかし、彼がいるのは心強くて。

「もう帰れ。十二時になる。夜中だぞ」

 ハッとしてレティシアは、窓から見える時計塔を確認する。作業に集中していて気付かなかった。 
 後二十分もすれば、二十歳の誕生日を迎えることができる。それもこの世界で一番安全で安心な義弟と一緒だ。

「ねえ、リーンハルト。私もうすぐ、二十歳の誕生日なの。あなたが一番に祝って」

 レティシアは嬉しくて義弟に抱きついた。

「そんなこと、婚約者にやらせろ。さっさと馬車に乗れよ。俺が送るから、全く父上も母上も甘いんだから」

 リーンハルトが不機嫌な声を出しながらレティシアを無造作に引き剥がす。しかし、彼女は嬉しくてお構いなしだった。

 彼は研究棟で毎日遅い時間まで勉強している。レティシアはそれに便乗して義父母に許してもらっていた。今世の彼らは勉強に熱心なレティシアを応援してくれている。

 そしてなぜかは分からないが、このループはもうすぐ終わりを告げるようだ。リーンハルトと仲良くなったのが良かったのかもしれない。

「リーンハルト、じゃあ、十二時過ぎまで私にお説教していいわよ」
「ばっかじゃないの。酒飲んでいるわけではないよな?」

 呆れたように言う。怒るのは諦めたようだ。
 今世で彼に馬鹿と言われたのは初めてだ。でも嬉しい、彼と二十歳の誕生日が迎えられる。レティシアは浮かれていた。


 そんな時、水を差すように、コンコンコンコンと再びノックの音が響く。さすがにびくりとした。時計塔を見るとまだ十五分はある。

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