冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
ループ4
レティシアは目覚めた。
いつもの天蓋ベッド。
大きな窓から差し込むきらきらとした光り。窓辺に揺れる大好きなスイートピー。
リーンハルト?
慌ててベッドの上に飛び起きる。全身が強打したように痛む。ふらりとしたが、腕をつっぱりなんとか体を支えた。
ちゃんと戻ったの?
なんの不足もなく?
「お嬢様!」
アナがいきなり起き上がったレティシアに驚く。
「レティシア、だめよ。いきなり起きては」
ミザリーが優しそうに微笑む。
ここはレティシアの部屋で、いつもの目覚めが繰り返された。
アナは慌て、ミザリーはレティシアの汗をふこうとする。彼女はそれを振り払う。ミザリーなどどうでもいい。ただ邪魔だった。
「リーンハルトは?」
レティシアの言葉に、ミザリーもアナも驚いて目を見張る。
「おそらく、お部屋にいらっしゃるかと」
アナが先に反応した。
「レティシアどうしたの?」
ミザリーが不思議そうに、少しこわばった表情で聞いて来る。しかし、レティシアはそれを聞き流す。
「アナ、私は今いくつ!」
そう質問しながらも、ベッドから足を下ろす。
「え? あの……十三歳におなりです。お嬢様、どちらへ!」
レティシアは寝巻のまま戸口へ向かう。ふらふらするがかまっていられない。
ミザリーは義妹の異様な行動に目を見開いて立ち尽くす。
アナだけがレティシアを心配してついて来た。
「お嬢様、どうかお部屋にお戻りください」
廊下ではアナがレティシアの体を支えてくれる。
「いやよ。御願い、リーンハルトに会わせて」
支えられているにも拘わらず、体の弱ったレティシアは転んだが、それをものとせず立ち上がり、壁を伝い義弟の部屋へ向かう。這ってでもたどり着く。その執念にアナが恐れをなす。
「お嬢様? いったい……どうされたのですか」
着いた彼の部屋の前で、ドアを叩き声の限り叫ぶ。しかし、声は枯れ思うようにはでない。
「リーンハルト、リーンハルト、リーンハルト……」
するとドアがガチャリと開き、驚きに目を見開いたリーンハルトが顔を出す。バラ色の頬に青く吸い込まれそうな澄んだ双眸。桜色の唇に柔らかそうな黄金色の髪。
レティシアは、自分と背丈の変わらない可愛い義弟を抱きしめる。柔らかく温かい。
「……良かった。リーンハルト、良かった」
彼の温もり、息遣い、心臓の音。間違いなく戻ってきた。
「生きてる。生きてた。生きてた!」
目の前の光景が涙で滲む。
「レティシア?」
子供の高く澄んだ声。懐かしい……陽だまりの匂い。そう、リーンハルトの匂い。どこにも血の、鉄さびの、深く沈んだ真夜中の香りなどなく、温かい陽だまりのなかでレティシアは堰を切ったように泣いた。
リーンハルトは無意識に彼女をぎゅっと抱きしめ背をさする。そうすればレティシアが泣きやむと信じているように。