冤罪で処刑され、ループする令嬢 ~生き方をかえてもダメ、婚約者をかえてもダメ。さすがにもう死にたくはないんですけど!?
 そして二日後にリーンハルトが高熱に倒れた。レティシアの流感がうつってしまったのだ。

 レティシアは、リーンハルトの高い熱に動揺し「死んでしまう」と彼のそばを離れなかった。
 大失態だ。
 こうやって、いつもレティシアは自分本位で人に迷惑をかける。彼にうつしてしまった申し訳なさでいっぱいだ。

 (なんで彼だけではなく、私まで生きているのよ。そのうえ、また迷惑かけて)
 彼を病気にしてしまった悔しさに涙があふれた。


 人の体はもろい。ときに、あっさりと生を手放す。それが怖くて怖くて昼も夜も病み上がりのふらつく体で、ずっと義弟のそばにつき添い看病をした。
 義父母が少し休むようにとレティシアを宥めても聞かなかった。決してそばを離れることはなく……。
 悪夢のように前世でのリーンハルトの死が、レティシアの頭の中で繰り返される。取り返しがつかない過ち。

「死なないでリーンハルト、死んじゃ、いや」

 熱に浮かされ眠っていたはずのが彼が、レティシアの微かな呟きを拾う。

「大丈夫……。流感なんかで死ぬわけがないだろう」

 かすれた声が、姉を励ます。

「うん、大丈夫、大丈夫だよ。リーンハルト、ごめんね。私静かにするから、ゆっくり休んで」

 レティシアは昼も夜も義弟から離れることはなかった。そして、ひっそりと前世に学んだ光の治癒魔法をかけた。もちろん、今はまだ魔法が使えることは秘密だ。

 そのお陰でもともと健康なリーンハルトは驚くほどはやく快方に向かった。
 

♢♢♢

 
 義父母も献身的に看病するレティシアに驚いていたが、義弟を心配する彼女がそれに気付くことはない。ただ黙々と彼の為に尽くしている。

 ミザリーは唖然としてその様子を見守った。とつぜん変わってしまったレティシアにどう反応していいのか分からない。いままで義弟と仲たがいしていたはずなのに。
 それもあれほど献身的に人の世話をするなんて……。嘘だ。あんなのいつものわがままなレティシアじゃない。あれは、誰?
 
 不思議だった。最近のレティシアは家族から切り離され、ミザリーだけを頼り、ミザリーだけを信用し、それ以外を排除し攻撃するようになっていた。このまま孤立していくはずだったのに。

 それがどうだろう。彼女は流感にかかったリーンハルトを心配してそばから離れない。
 
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