酩酊メロウ
「澪、おかえり」

「あれ、早いね。どうしたの?」


私は相変わらず本家と事務所を行き来して家政婦として働いている。今日は本家で給仕をしていた。
夕方、家に帰り着くと遅くなると言っていた憂雅さんがリビングのダイニングテーブルに座っていた。


「澪に話があって」


私に話?そんなにかしこまってどうしたのだろう。
口元に笑みを携えていても私には分かる。憂雅さんがそわそわしていると。

こういう時、数々の嘘に翻弄された私は悪い想像しかできない。別れ話だったらどうしよう。

憂雅さんはテーブルの貝殻の形を模したケースを置いた。「開けて」と言うから手を伸ばして開けると、真珠のピアスとダイヤのネックレスが一緒に入っていた。


「……綺麗、ありがとう」

「澪は水仕事多いから、指輪は向いてないと思って」

「どういうこと?」

「長い間お待たせ」


何を待たせたと言うのだろうか。
顔を上げた時、憂雅さんは柔和な笑みを浮かべていて、言葉の意味をようやく理解できた。


「俺と結婚しよう」
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