酩酊メロウ
「まだ泣くなよ。澪の口から返事聞いてない」

「答えなんて分かりきってるのに?」

「それでも言葉にして伝えて欲しい」


泣くな、なんて無理難題だ。私の心を揺さぶってきたのは憂雅さんなのに。
それでも私から直接答えが聞きたいとあれば、ご要望に応えて気持ちを伝えよう。私は深呼吸して憂雅さんに向かい合った。


「憂雅さん、私を選んでくれてありがとう。あの時、私を助け出してくれてありがとう。
憂雅さんには感謝することばかりなのに、私の夢まで叶えようとしてくれてる」

「澪の夢?」

「うん、私はずっと家族に憧れてた。日常の些細な幸せを共有できる居場所が欲しかった。
だから家族になるってことは、私にとってすごく特別なことなんだ。
これからはお互いを支え合える家族として、よろしくお願いします」


頭を深く下げて、ゆっくり顔を上げると、憂雅さんの瞳が揺れたのが見えた。
あれ、もしかして泣きそう?
驚いて目を見張ると、憂雅さんは腕を広げて抱きついてきた。


「……泣いてる?」

「泣いてない、ぜんっぜん大丈夫」


珍しく嘘の付き方が下手だ。鼻をすすってるくせに、どうも涙を見せるのは男のプライドが許さないらしい。
愛しくてたまらなくて、憂雅さんの胸の中で涙を零した。
< 117 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop