酩酊メロウ
「あの、そもそも、私には行く場所がないのでここを離れる気はありません」

「本当に?」

「本当です、私は憂雅さんみたいに嘘が上手じゃないから」

「よかった……」


だけど惹かれてしまったことには気づかれたくない。
ちょろい女だとバレたら、使えないと思われて捨てられるかもしれない。

しかし、当の本人は大きな安堵のため息をついて抱きついてきた。
嫌なことしないって言ったけど、今後もスキンシップはする方針なの?
抱きつかれた後に疑問に思って首を傾げたら、憂雅さんはハッとして離れた。


「ごめん、こういう所だよな。気をつける」

「いえ、大丈夫です。お気になさらず……」


抱きついたのはどうも無意識だったらしい。
気をつけると言われたけど、嫌じゃないから謝らなくていいのに。
そう伝えようとしたけど、憂雅さんはリビングを出て行ってしまった。


「じゃあ俺もそろそろ行ってくる。3日くらい戻らないかも」


10分後、スーツを着た憂雅さんがリビングに顔を出した。
背が高いからスーツ姿がかっこよくて見とれてしまう。


「……どうした?」


いつもなら“憂雅さんのスーツ姿かっこいくて見とれちゃいました”なんて笑顔で返せるのに、今日は言葉に詰まる。
だから「分かりました、お気をつけて」なんて無難な言葉しか言えなくて、仏頂面でお見送りしてしまった。
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