酩酊メロウ
琥珀は「ふーん」と口をとがらせて何か言いたげだ。


「怖いかも知れないけど義理人情には熱い人だから、ゆっくり信頼関係築いていけばいいんじゃないかな。
この1ヶ月で割と紳士だって分かったでしょ?」


焦って冷や汗が出てきたけど、的外れなことを言われて安心した。
紳士どころか、昨日は本能のまま抱かれて野獣そのものだった。

それより憂雅さんは信頼関係を築くほど、長く雇ってくれるのだろうか。
先行きを案じていると、ふわりと漂ってきた石けんと花の香り。


「いい匂いする、どこの香水?」

「絆が嫌がるから香水つけてない。ヘアオイルの匂いだと思う」

「この匂い好き」


琥珀に近づいて、すんすんと匂いを嗅ぐ。
気分はさながら、いい匂いに釣られて飛んできた虫のよう。


「ひとつ余ってるけどいる?」

「えっ、いや、そんなつもりで言ったんじゃないよ」

「この前間違えて2つ買っちゃって。次は違う匂いにしたいからもらってくれると助かる」

「欲しいです!」

「ふふ、そういう素直なところかわいい」


遠慮したけど、結局棚ぼたで譲り受ける流れに。
微笑む琥珀ちゃんは今日も美しくて眩しい。
はあ、友達と話してるとやっと日常に戻った気がして落ち着く。

憂雅さんの件もきっと大丈夫、なんとかなる。
こんな設備の整った豪華なタワマンに無料で住まわせてもらってるんだから、多少のことは目をつぶらないと。

いつまでもうじうじ考えても仕方ない。いっそ忘れてしまおうと、前向きに考えることにした。


だけど相変わらず、鳴海憂雅という男の思考回路はいくら考えても理解できなかった。
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