酩酊メロウ
「取り立て中邪魔して悪いな。この女の身柄は本家預かりにさせてもらう」

「本家に?いったい何に使うおつもりで?」

「さあ、お前らには関係ねえだろ」


大きな体を曲げて顔を近づけてきた彼は、突然耳元で「立って」と囁いてきた。
男たちと会話する声とは違って優しい声。驚いて勢いよく立ち上がった。
すると、自然な動きで腰に手を回された。

恐怖による吐き気が消えた代わり、異性にこんな扱いをされたのは初めてで心臓が痛い。
何を企んでいるの?この人私をどうするつもり?

私にとって都合のいい展開なんて起きるわけがない。
ましてや闇金と面識のある男なんて、きっとろくでもない。


「こいつの借金、いくら?」

「1300万です」

「とりあえず俺が立て替えとくわ、それでいいだろ」


だけど腰を支える手つきが強引じゃないから、不思議と拒めない。
脅威から私を守ってくれている。そんな風に錯覚してしまう。


「じゃあ他にいいカモを連れて来てくれます?
そいつ、従順そうだし見た目も悪くねえから結構稼げると思ったんですよ。
連れていくなら、代わりを用意してください」


私をここに連行した男たちは、金儲けに私を利用する算段だったようだ。
カモと表現され鼻で笑われた。人以下の扱いを受けてうまく息ができない。

人権すら保証されない恐ろしい世界があると知らなかった。
きっと普通に生きていたら知らなくてよかったはずなのに。
こんな環境に放り込んだ元凶の母を強く恨んだ。
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