酩酊メロウ
「俺としては必死なわけ」


ぽつりと呟いた憂雅さんは、私の頬に指を滑らせてまるで大切なものに触るように撫でる。
勘違いしてしまいそうだから「何に必死なんですか?」と自分から発言して気を紛らわそうとした。


「俺が澪ちゃんに気があるって知られたら、たぶん引き離される。
生きる世界がかけ離れてるから、周りの人間が情が芽生える前に関係を切れって介入してくる」


そのつもりが、予想外の言葉に露骨に驚いてしまった。
私に気があるって、にわかには信じ難い。
いったいどうしたらヤクザの幹部がこんな冴えない女に興味を持つの?
変わりはいくらでもいるような凡人だけど。


「だから今は、住み込みの家政婦って肩書きしか与えられない」


平々凡々だと分かっているから、高望みはしていない。家政婦以上の肩書きが欲しいとも思っていない。

頬に添えられていた手が顎先にかかり、半強制的に視線を合わせられる。
獣のように鋭く、魅入ってしまうほど美しい眼だった。
酒を飲んだ影響か少し潤んでいて、色気が相まって目が逸らせない。
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