酩酊メロウ
「ごめん、助けに入るのが遅かった」


だけど車に乗り込むと、杏ちゃんは謝罪の言葉と一緒に強く抱きしめてくれた。その細い腕は震えていて、騙されていたなんて信じたくはなかった。


「杏ちゃんが助けてくれたんだ、ありがとう」

「お礼を言われる筋合いはないよ。私は澪にずっと嘘をついてたから」

「え……」


きっと何かの間違いだと、疑問を口に出す前に感謝を告げると突き放された。
彼女は嘘をついていたと明言したのだ。


「嘘、って?」

「ひとつ、私の名前はアンじゃない。ふたつ、私は荒瀬組の若頭と付き合ってる」


暴露した嘘は予想の範疇を遥かに超えていた。
つまり、相川杏は偽名だった?じゃあ、目の前にいるこの人は一体誰なの?

もうひとつの真実も意味がわからない。ヤクザと付き合ってるってどういうこと?どうしてそれを私に教えたの?


「私の名前は中嶋(なかしま)琥珀」

「……それが、杏ちゃんの本名?」

「うん、そしてここにいる憂雅さんは若頭補佐で私の味方」


騙され続け、警戒していたはずだった。
ところがこの人なら、と信頼した友達は嘘だらけの人間だった。

ああ、また嘘に弄ばれる……。
真実を受け止め切れず、頭の中でぷつんと糸の切れるような音がした。
発進した車の中、極度のストレスに晒された脳がパンクして、私は気を失った。
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