酩酊メロウ
「はい、お役に立てるか分かりませんが、精一杯頑張ります!」

「うんうん、元気で華があっていいな」


両手の拳をかためてやる気だけはあるとアピール。力さんは目を細めて笑ってくれた。

その後、力さんの指示のもと昼食の準備を進める。私はもっぱら食材を切ったり皿洗いするだけだったけど、同時進行で複数の料理を作る力さんの手際の良さに感動した。

すごい、料理人って感じ。作業しながらチラチラ見ていると、一段落ついた力さんがこっちを向いた。


「なんで自分が選ばれたのかって、最初驚いただろ?」

「あ、はい……組員さんじゃだめなのかなって思いました」

「いやァ、ごめんな。本家の連中がみーんな憂雅の彼女が気になって仕方ないって言うから」

「……えっ?」


憂雅さんが嫌がるからおかしいとは思ってた。
どうやら私、興味本位で荒瀬組の本家に連れて来られたらしい。

「今日はたぶん、いろんなヤツが澪ちゃんを見に来ると思う」

「そんな……心の準備ができてません!」


憂雅さんの意見を差し置いてそういう提案ができるってことは、若頭補佐より地位の高い人たちだよね?
そんな大物と渡り合える度胸なんてないのに!


「力さん、お茶ちょうだい」


その時、厨房にスーツを着た人が入ってきた。
はっきりした顔立ちのイケメン。力さんより若そうな印象だけど、その一言で対等な関係だと分かった。


その人は勝手に冷蔵庫を開けると、中から冷えたお茶を取り出して、食器棚からグラスを取り出す。


「凛太郎お前ェ、あからさま過ぎるだろ」

「はは、“噂の澪ちゃん”見に来たのバレてら」


リンタロウと呼ばれた男は、どうやら野次馬1号らしい。
そんなことより図星を突かれて誤魔化す笑顔が素敵すぎて、思わず持っていたスポンジをぎゅうっと変形するまで掴んだ。
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