酩酊メロウ
「初めまして、網谷凛太郎です」


ところが、笑顔で挨拶されて違和感を覚えた。
網谷って、荒瀬組幹部の網谷会と同じ名字だ。

事務所のおじさんたちが教えてくれたから分かる。
網谷凛太郎といえば、網谷会の若頭で、組長お墨付きの幹部だ。
なんでそんな人が私に会いに来たの!?


「は、はじめまして……!安藤澪と申します」


失礼のないよう、洗い場から離れて頭を下げる。
名前聞くまで全然警戒してなかった。だってアイドルみたいな中性的な綺麗な顔した男の人だったから。

荒瀬組幹部がどこもかしこも美形ぞろいなの忘れてた。
これからは美形に出会ったら警戒しないと。


「ああ、いいよ洗いながらで」

「ほれ、澪ちゃんがビビってんだろ。可哀想だからどっか行け」


凛太郎さんはアイドル級の弾ける笑顔で対応してくれた。
ま、眩しい……!本当にヤクザかと疑うくらい人当たりがいい。

それにしても力さん、幹部にタメ口なんて、ただの厨房係とお聞きしたのに大丈夫?


「だって、4歳から世話してる憂雅の彼女とか気になって仕方ない」

「俺は生まれた時からだぞ。よくおんぶしながら洗い物してたもんだ」


2人の会話を聞いていると、さらに疑問が生じた。
そんな昔から憂雅さんを知ってるなら、結構いいお年なのでは?
力さんは30代後半、凛太郎さんはアラサーに見えなくもないけど、いったいおいくつ?


「ま、待ってください……おふたりともおいくつですか?」

「俺は今年で43。凛太郎は若ぶってるけど37」


気になりすぎて質問したら、とんでもない回答が返ってきた。
うそ、力さん40過ぎてたの!?凛太郎さんに至ってはまさかのアラフォー!?
てっきり憂雅さんより少し上だと思ってたら、10個も上だった。

信じられない、過酷な裏社会に生きてるのに見た目が若すぎる。
驚愕の事実に、口をあんぐり開けておふたりの顔を交互に見た。
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