酩酊メロウ
「あっ、えっと……安藤澪です。憂雅さんとお付き合いさせていただいてます」

「ふふ、緊張してますね」


座布団が敷かれた場所に正座し、頭を下げて挨拶をする。
もっとハキハキと答えたいのに、動揺が声に出た様子を笑われてしまった。

でも、優しい眼差しだったから嫌な気持ちにはならなかった。
変な感じ。荒瀬の幹部は誰しも目の奥に闇を抱えていて、初対面なら尚更直視できなかったのに。

不思議と司水さんの目は見つめることができる。しかし、どこかその笑い方と視線に既視感がある。
ああそうだ、憂雅さんが嘘をついている時と同じだ。


「急にお呼びして申し訳ありません。たまたま本家に寄ったら、澪さんがいると聞いたものですから」

「いえ、私もいつかご挨拶にお伺いしなければと思っていたので、お会いできて良かったです」


つまり、司水さんは本来の自分すら偽って、完璧に無害な人間を演じているのだと分かった。

どうして息子の彼女に対して、そこまで警戒しないといけないのだろう。
自分でいうのはなんだけど、私はどう考えても人畜無害な顔をしていると思う。
荒瀬を脅かす存在でないのは容易に判断できるはず。

でも、司水さんのその表情は憂雅さんによく似ている。
やっぱり、親子は思いがけないところで似るものなんだろう。


「どうして私に呼ばれたのか、分からないようですね」

「……はい」

「なぜだと思います?」


図星を突かれて構えたら、警戒する私の心を弄ぶかのように、司水さんは妖艶に微笑んだ。
これは、もしや試されてる?試されるような価値は私にないのに。

でも、黙ったら負けな気がする。答えないと。


「……あの、私と憂雅さんが付き合っていることに反対されているなら、そうだとおっしゃってください」

「聡いですね。ですが青い」


最悪を想定してカマをかける。
すると司水さんは目の奥に隠していた闇を宿し、一方で朗らかに笑った。
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