酩酊メロウ
「安易に別れて欲しいとは言っているわけではありません。
こちらに危害がない限り、どんな生き方をしようがそれは憂雅の勝手ですから」


表面を繕っていても、この人もヤクザなんだと実感した。
温和に見せかけた仮面の下に隠れた冷酷さ。
厳かな風格に畏怖を覚え、目をそらすこともできない。


「ただ、覚悟があるのかお聞きしたい」

「……覚悟?」

「有事の際には、憂雅はあなたを優先しません。あの子にとっての“護るべき王”は絆なので」


頭の中では、分かっていたつもりだった。
だけど淡々とした口調にいざ言葉にされると、多少はショックを受ける。

私は憂雅さんの心の拠り所になれても、憂雅さんの一番には一生なれない。
憂雅さんと絆さんの間には、親兄弟を超えた強い信頼関係がある。


「あなたか絆か、天秤にかけられた時は真っ先に憂雅は絆を助けるでしょう。それでもよろしいですか」


理解した上で、二の次でいいから憂雅さんの隣に立つことを選んだ。
だったらうろたえてる場合じゃない。毅然に振る舞わないと。


「構いません。元々憂雅さんに救われた命だから、生かすのも捨てるのも彼次第です」


苦し紛れの下手くそな愛想笑いを携え、迷いなど感じさせない強い口調で宣言した。
私の言葉を受けてどう出るのだろうと様子を伺うと、次の瞬間目を丸くして呆然と顔を合わせた。


「……不思議ですね」


ゆらゆら揺れる瞳で呟くと、彼は悲しそうな顔で微苦笑を浮かべた。


「よく似ている。憂雅は知らないはずなのに」

「誰のことですか?」

「あなたは憂雅の母親にそっくりです」


試すような素振りをやめて、懐かしむように笑う司水さん。
私が憂雅さんの母親に似てる?そして、憂雅さんが母親を知らないってどういうこと?

こうして私はまたひとつ、憂雅さんの秘密を知ることになるのだった。
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