酩酊メロウ
「つまり、司水さんの奥様のことですか？」

「いいえ、憂雅は兄夫婦の間に生まれた子です」


予想外の言葉に殴られたような衝撃を食らう。
目の前の男性と憂雅さんに、親子としての血の繋がりはないなんて。


「襲撃された組長を守って凶弾に倒れた兄と、産後の肥立ちが悪く、憂雅を産んでまもなく亡くなった義姉の子です」


それだけでなく、肉親と死別していたなんて知らなかった。
動揺を隠せない。押し寄せる感情の波に対処しきれない。
苦しくなって司水さんの目を見つめると、落ち着かせるように優しく微笑んだ。

憂雅さんが家庭に複雑な事情を抱えているのだと、この時初めて知った。
でもきっと、これまで隠していたのは私を思ってのことだろう。

だって人伝に聞いただけで、泣きそうで情けない顔をしている。
受け止めきれなくて動揺しているみっともない姿、余計心配させるから憂雅さんに見られたくない。


「やはり、知らなかったのですね。あの子は嘘が上手だから」


司水さんはうつむき加減に笑った。だけど馬鹿ににしているわけではなく、慰めるような優しい声。
目を合わせないのは、きっと私の感情がうつることを恐れているから。


「いつからでしょうね、あの子が嘘をつくようになったのは」


彼は独り言のように語りかけ、私の知らない憂雅さんを語ってくれた。


「あの子は昔から、人を傷つけないための優しい嘘が上手でした」

「はい……知ってます」

「そうでしょう、憂雅は本来優しい子です。
ですがそれがいつしか、闇に飲まれて息をするように嘘をつくことを覚えて……正直、若いうちに極道の色に染まり切ってしまったことは不安でした」


そして、憂雅さんがこの場に同席しない理由がよく分かった。
こんな話、懸命に荒瀬のために尽力する息子を前にしてはできないはずだ。

最初から司水さんは私を見定めるつもりではなく、憂雅さんの生い立ちについて話したかったんだ。
他でもない、息子を想う父親としての立場から。
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