【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
まだ日は暮れていなかった。

レースのカーテンの向こうには、あの部屋のサッシがうっすら見える。

私は椅子にもたれたまま、その方向に目をやる。



――昨日の男。


裸の女にまたがりながら、私の顔を見て笑って見せた、あの男。

あの人、あの部屋に住んでいるのかしら。

そう考えた途端、動悸が早まる。



ドクドクドク。


心臓から押し出された血液が一気に全身を駆け巡る。


頭の先からつま先まで。





気になる。

気になって仕方ない。

あの部屋をもう一度覗いてみたい。

そんな衝動がふつふつと沸いてきた。

私の力では押さえ込むことができない。



自分の中で何かが葛藤していた。

見てみたいという欲望と、見てはいけないという良識。

二つが何度もぶつかり合う。



そうだ。

日が暮れてからにしよう。

日没後こちらの部屋の灯りを消したまま、隣のマンションの部屋を覗いてもおそらく気づかれないだろう。



私はひとまず気持ちを切り替え、ベッドに横たわった。


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