【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「ねえ、沢木さん」

麻生くんの声が私を現実へと引き戻す。

「もしかしたら、沢木さんが見たのはキスだけじゃないんじゃない?」

「え…?」

返す言葉が見つからなかった。

麻生君に自分の心の中を覗かれているようで、私は凍りつく。

麻生くん、知っているわけないのに…。

どうしてそんなことを言うの?



「沢木さんてわかりやすいんだもん」

麻生君はくすっと笑った。

私のことはすべてお見通しとでも言いたいのか、余裕の笑顔だ。

「な…何が?」

そう言い返したきり私は何も言えなくなってしまった。


だって…。



麻生くんの手が私の右の頬をなでていたから。









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