【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
「ラン…」

部屋に入ってきた私をいったん確認したきり、ランは顔を向こうに向けてしまった。

居心地悪いほど不自然な沈黙だけが流れる。

どこに身をおいたらいいかすらわからず、私はぼんやりと部屋の隅に立ち尽くす。

来ないほうがよかった。

視線すら合わせないランを目の前にし、あらためて絶望する。

そうだよね、私の顔を見れば不愉快になるだけだよ。

会いたいわけなんかないに決まっている。

「ごめん…やっぱり私、帰るよ」

そう言ってドアノブに手をかけたそのとき、私の背中に小さく言葉が投げかけられた。
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