【完】大人の世界~甘美な毒に魅せられて~
応答はなかった。

よかった――。

あんなに勇ましくランの家を出た私だったけれど、心の中はすっかり怖気づいていた。

元気いっぱいだったあのランが、あんなふうに怯えた目をして体をちいさく丸めているだなんて。

きっと、私の想像をはるかに越えた恐ろしい体験だったに違いない。



だから、できれば、その事態は避けて通りたい。



肩でほっとため息をつき、踵を返そうとしたそのとき。



麻生マコトの声が聞こえた。



「沢木さん、よく来てくれたね」



二階のカーテンの隙間から、彼の狂気じみた笑顔が降り注いでいた。


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